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ベルクマンの法則は人間にも当てはまるのか?植物・昆虫との比較で分かる本当のところをわかりやすく解説

サイエンス

「寒い地域に住む人ほど、体が大きくてガッシリしている」

…なんとなく、そんなイメージを持っている人は多いかもしれません。

生物学には、このイメージに近い「ベルクマンの法則(Bergmann’s rule)」という考え方があります。

同じグループの動物を比べたとき、寒い地域にいるほど体が大きく、暖かい地域にいるほど体が小さい傾向がある

という内容です。

では、このベルクマンの法則は、人間にもそのまま当てはまるのでしょうか?

結論から言うと、

  • 人間にも「それらしい傾向」が見つかる場合はある
  • ただし、気候だけでは説明できず、栄養・生活環境・文化など、別の要因の影響もとても大きい

という、かなり「条件付き」の話になります。

さらにややこしいのは、この法則を「すべての生きもの」に広げて考えようとすると、

  • 植物では、気温よりも「降水量」や「成長期間」の方が効いていそう
  • 昆虫では、ベルクマンの法則と逆のパターンが出ることも多い

など、「きれいな一枚の法則」とは言いがたい点です。

この記事ではまず、

  1. ベルクマンの法則の基本
  2. 人間で本当に当てはまるのか
  3. 植物や昆虫ではどうなのか

という順番で見ていきながら、「ベルクマンの法則はどこまで“使える考え方”なのか?」を、落ち着いて整理してみます。

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人間の場合:ベルクマンの法則は当てはまるのか?

ベルクマンの法則とは?

まず、人間がベルクマンの法則の対象になりそうな理由から見ていきましょう。

ベルクマンの法則は「動物において、寒い地域では体が大きめ、暖かい地域では体が小さめ」という傾向を示すものです。

ベルクマンの法則(Bergmann’s rule)は、1847年にドイツの生物学者カール・ベルクマンが提唱したもので、もともと鳥類と哺乳類(恒温動物)に関する研究と観察に基づいて確立されました。

ベルクマンの法則の考え方の根本には、体積と表面積の比があります。

体が大きい生き物は、体積(熱を生む部分)が大きく、表面積(熱を逃がす部分)が相対的に小さくなるため、熱を保持しやすくなります。

つまり、寒い地域では「体が大きい方が有利では?」と考えられるわけです。

ベルクマンの法則は、人間にも当てはまるのか?研究では「部分的に当てはまる」という結果が多い

人類学では昔から「寒冷地の人々は体格が大きい」という仮説がありました。

しかし近年の大規模研究では、この関係がいつでも・どこでも成り立つわけではないことが分かってきています。

たとえば、緯度の高い地域と低い地域の人々を比較した研究では、

  • 気温差が大きい地域では「寒い地域=体が大きい」傾向が見られる
  • 気温差が小さい地域では、その傾向がほとんど見られない

という結果が報告されています。

さらに、現代の人間の体格は、気候よりも以下のような要因の影響が大きくなっています。

  • 栄養状態
  • 生活習慣
  • 医療環境
  • 移住の歴史
  • 社会経済的背景

このため「寒いから体が大きくなる」という単純な説明は難しくなっています。

人間は“環境を変えられる存在”である

さらに重要なのは、人間は服・住居・暖房・冷房などによって、体が受ける環境を自分でコントロールできるという点です。

これは野生動物と大きく異なります。

たとえば、寒い地域に住んでいても、分厚い服を着たり暖房を使ったりすれば、体が寒さに適応して変化する必要は薄れます。

逆に、暑い地域でも冷房で快適な生活ができます。

結果として、現代の人間の体格は気候よりも文化や生活環境の影響のほうが強いと考えられています。

結論:当てはまる場合もあるが、「気候だけで体格が決まる」わけではない

まとめると、人間の場合は次のように整理できます。

  • 寒冷地の人の体格が大きめになる例は確かにある
  • しかしそれは「気候だけの影響」ではなく、栄養・文化・社会環境が大きく関わっている
  • 現代では特に、気候の影響が薄れつつある

「人間はベルクマンの法則に限定的・部分的に当てはまる」ということであり、絶対的な一般法則として強く当てはまるわけではない…っと言えます。

次は、同じ「生きもの」でもまったく仕組みの違う植物の場合を見ていきます。

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植物の場合:ベルクマンの法則は当てはまるのか?

植物にもベルクマンの法則は当てはまる?

ここからは、人間とはまったく体のつくりが違う「植物」の話です。

ベルクマンの法則は、もともと鳥や哺乳類などの「動物」を対象に考えられたものです。

動物は体温を保つ必要があり、「体積と表面積のバランス」が生存に直結します。

では、体温を自分で調節しない植物にも、「寒いところほど大きくなる」という決まったパターンはあるのでしょうか。

結論を先に言うと、

  • 植物にベルクマンの法則をそのまま当てはめることは、ほとんどできない
  • むしろ「気温」以外の要因(雨の量、成長できる期間、土壌の栄養など)の影響がとても大きい

と考えられています。

植物の「大きさ」を決める要因は気温だけではない

植物の「大きさ」と言っても、高さ・幹の太さ・葉の大きさ・根の広がりなど、いろいろな指標があります。さらに、育つ環境も複雑です。

たとえば、次のような条件が組み合わさって、大きさが決まります。

  • 1年のうち、どれくらいの期間成長できるか(成長シーズンの長さ)
  • 雨の量や、その降り方(夏に多いか、冬に多いか)
  • 土壌の栄養分や水はけ
  • 日射量や風の強さ

そのため、「緯度が高くて寒い=大きくなる」とは、なかなか言い切れません。

実際の研究でも、「高緯度ほど背が高くなる」ような単純なパターンは、世界全体を見渡すとあまりはっきり出ていません。

あるサボテンでは、寒い地域で幹が太くなる例が「ベルクマン的」として紹介されたこともありますが、詳しく調べると、気温というより「降水量」との関係の方が強かった、という結果も出ています。

一部で“ベルクマン的”に見える例もあるが…

植物の中には、「寒い地域ほど少し大きくなる」ように見えるグループもあります。

ただし、それが

  • 本当に「熱を逃がしにくくするための適応」なのか
  • それとも「雨の少なさ」「日射量の違い」「土壌条件」など、別の要因の“副産物”なのか

を区別するのはとても難しい、という問題があります。

つまり、「見た目のパターン」がベルクマンの法則に似ていても、その理由が動物と同じとは限らないのです。

植物の場合:まとめ

ここまでを整理すると、植物については次のように言えます。

  • 「寒い地域ほど大きい」という例が部分的にあっても、それをベルクマンの法則そのものとして扱うのは慎重であるべき
  • 植物の大きさは、気温だけでなく、成長期間・降水・土壌・光環境など、多数の要因が同時に効いている
  • そのため、植物では「ベルクマンの法則は一般的には成り立たない」と考えられている

動物に比べると、植物の「体の大きさ」と環境の関係は、ずっと多変数で、単純なルールでは整理しづらい世界です。

次は、さらに性質の違う昆虫の場合を見ていきます。

ここでは、ベルクマンの法則に「逆らう」ようなパターンもたくさん報告されています。

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昆虫の場合:ベルクマンの法則は当てはまるのか?

昆虫は“ベルクマンの法則が苦手なグループ”

最後は、動物の中でも少し特別な存在、「昆虫」です。

昆虫は、私たち人間や哺乳類と違って、自分で体温を一定に保つことができない「変温動物」です。

体の温度は、ほぼ周りの気温に左右されます。

ベルクマンの法則は、本来「体の中で熱を生み出して、できるだけ逃がさないようにする」タイプの生きもの(恒温動物)で考えられたものです。

そのため、体温調節の仕組みがまったく違う昆虫に対しては、最初から当てはめにくい面があります。

研究結果は「バラバラ」:正ベルクマンも逆ベルクマンも

昆虫の体の大きさと、気温や緯度との関係を調べた研究はたくさんあります。

ところが、その結果はかなりバラバラです。

ざっくり整理すると、次の3パターンが報告されています。

  • 寒い地域ほど大きくなる「ベルクマン型」のパターン
  • 逆に、寒い地域ほど小さくなる「逆ベルクマン型」のパターン
  • そもそもはっきりした関係が見えない「無関係型」

あるレビュー論文では、「昆虫ではベルクマン型と逆ベルクマン型の両方が見つかり、どちらか一方が“いつも正しい”とは言えない」とまとめられています。

つまり、「昆虫全体として見れば、ベルクマンの法則は一般的なルールとは言いがたい」というわけです。

なぜこんなにパターンが分かれるのか?

昆虫の体の大きさを決めている要因は、とても多様です。たとえば、次のようなものがあります。

  • 成長できる期間(暖かい季節の長さ)
  • 幼虫から成虫になるまでに必要な時間
  • 食べ物の量や質
  • 捕食者との関係や、繁殖に有利なサイズ

寒い地域では、成長できる期間が短くなりがちです。そのため、

  • 「短い期間で一気に成長するために、大きくなりにくい(→小型化)」

という方向に働くこともありますし、逆に、

  • 「寒さに耐えるためには、ある程度の体の大きさが必要(→大型化)」

と働くこともあります。

どちらの力が強く働くかは、種ごとの生態や暮らし方によって変わるため、「いつでも同じ方向にはならない」のです。

例外的に“ベルクマンっぽくなる”昆虫もいる

とはいえ、昆虫の中にも、ベルクマンの法則に近い傾向が見られるグループもあります。

たとえば、マルハナバチのように体が大きく、体温をある程度自分で上げて活動できる種では、寒い地域ほど体が大きくなる「ベルクマン型」のパターンが報告されています。

こうした昆虫は、完全な恒温動物ではないものの、「飛ぶために筋肉で熱を生み出す」など、部分的に“自前の熱”を使うことができます。

そのため、ベルクマン的な考え方(体積と表面積のバランス)が、ある程度は通用しやすいと考えられます。

昆虫の場合:まとめ

ここまでをまとめると、昆虫については次のように言えます。

  • 昆虫では、ベルクマン型・逆ベルクマン型・無関係型がすべて報告されており、全体としてはパターンがバラバラ
  • その背景には、「気温」だけでなく、成長期間・繁殖戦略・食物・捕食者など、さまざまな要因がからみ合っている
  • 一部の昆虫(マルハナバチなど)ではベルクマンの法則に近い傾向が見られるが、昆虫全体に一般化することは難しい

つまり、「昆虫はベルクマンの法則から大きくはみ出しやすいグループ」であり、「気温だけで体の大きさを語るのは危険」ということが、よりはっきりと見えてきます。

次は、人間・植物・昆虫の3つのケースを振り返りながら、「ベルクマンの法則はどこまで“便利な考え方”として使えるのか?」を改めて整理していきます。

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まとめ:ベルクマンの法則はどこまで「使える」のか?

3つのケースを振り返る

ここまで、「人間・植物・昆虫」の3つのグループについて、ベルクマンの法則が当てはまるかどうかを見てきました。いったん整理してみましょう。

まず、人間の場合です。

  • 寒い地域の人の方が、体格がやや大きめになるというデータはある
  • しかし、体格には栄養・医療・生活環境・社会経済的要因などが強く影響している
  • さらに、現代人は服や住宅、冷暖房によって「体が受ける環境」を大きく変えている

そのため、人間では「気候だけで体の大きさを説明する」のは難しく、ベルクマンの法則は「部分的には当てはまるかもしれないが、一般法則とまでは言えない」という立場が現実的です。

次に、植物の場合。

  • 植物の“体の大きさ”は、高さ・幹の太さ・葉のサイズなど多くの要素で構成される
  • 気温だけでなく、成長期間、降水、土壌、日射、風など、多数の環境条件が同時に効いている
  • 一部では「寒い地域ほど大きい」ように見える例もあるが、その理由は“熱の出入り”だけでは説明しきれない

このため、植物については、ベルクマンの法則をそのまま適用するのはほぼ不可能で、「似たパターンが見えることもあるが、法則としては成り立たない」と言うのが妥当です。

最後に、昆虫の場合。

  • 昆虫は変温動物で、体温が周囲の気温に左右される
  • 研究結果は「寒いほど大きい」「寒いほど小さい」「そもそも関係がない」とバラバラ
  • 成長期間、食物、捕食者、繁殖戦略など、気温以外の要因が強く関わっている
  • マルハナバチのように、ごく一部でベルクマン的なパターンが見られる例もあるが、全体には一般化できない

つまり、昆虫は「ベルクマンの法則から外れやすいグループ」であり、“気候→体サイズ”を一つの線で結ぶのが、とくに難しい存在だと言えます。

ベルクマンの法則の「位置づけ」

こうして見てくると、ベルクマンの法則は次のような性格を持つことが見えてきます。

  • 「寒い地域ほど体が大きい」という、わかりやすい“経験則”としては便利
  • ただし、そのまま何にでも当てはまる“万能ルール”ではない
  • 特に、人間・植物・昆虫については、例外や別の要因が多く、慎重な扱いが必要

言い換えると、ベルクマンの法則は

生きものと環境の関係を考えるための、ひとつの“入口”

としては役に立つけれど、

これだけ知っていれば、生きものの体の大きさが説明できる

という種類の法則ではない、ということです。

そして、実際に地球温暖化が進むなかで、

「野生動物の体がどれくらい小さくなっているのか?」

「人間の平均身長や体格にも変化が起きているのか?」

といった研究が世界中で進められています。

次の記事では、こうした“最新の科学的データ”をもとに、気候変動が生物の体にどのような影響を与えているのかを、もう少し深く見ていきます。

ベルクマンの法則はあくまでひとつのヒント。

地球が変われば、からだのつくりも変わっていく──その関係を一緒に探っていきましょう。

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